年金は長生きに対する保険? 払い損になるって本当?

「国民年金は保険と同じ」「長生きしなければ損をする」そんな言葉を聞いたことはないでしょうか。

年金は、保険と完全に同じものではありませんが、保険と共通する部分も持っています。ただ、年金は、保険と似た側面を持ちながらも、異なる制度です。「長生きすれば得する」という側面はありますが、経済状況や個人の状況によって、その効果は変わってきます。

今回は、「年金を払うことは損なのか」「年金は実際にもらえるのか」など、皆さんが疑問に思う“年金”について考察していきます。

目次

年金は長生きに対する保険

保険*とは、日常生活で起こるさまざまなリスクに備えるための金銭的な保障のことです。

病気・ケガ・死亡・火災など、様々な不測の事態に対して、あらかじめ保険料を支払い、いざという時に保険金を受け取ることで、経済的な損失を補償します。

「返金=保険」と単純に言い切るのは難しいですが、「長生きに対する保険」という側面を持つことは間違いありません。年金は払い戻されるものではなく、一定期間、継続的に受け取るものです。

*保険は、個人が加入する生命保険や損害保険だけではなく、国に納付する社会保険(健康保険、厚生年金保険など)も含まれます。

年金が「長生きに対する保険」と言われる理由

長生きすることで発生する経済的なリスクに備えるための制度が年金です。まるで、長寿というリスクに備える「保険」のようなものと言う側面がある事から言われています。

  • 老後生活の安定
    老後の生活費を一定額、安定して得られるという点が保険の保障に似ています。
  • 長生きリスクへの備え
    長生きすればするほど、医療費や生活費がかかります。年金は、この長生きリスクに対する備えの側面があります。
  • 国民皆年金制度
    日本では、国民皆年金制度が導入されており、国民全員が加入することが義務付けられています。これは、国民全員が老後の生活を保障するという国家の考え方を反映しています。

年金と所得再分配機能について

所得再分配機能とは、社会全体で所得の格差を是正し、より公平な社会を実現するための仕組みです。高所得者から税を徴収し、低所得者に給付することで、所得の低い人々の生活を支えることを目的としています。

年金は、この所得再分配機能を担う重要な役割を果たしています。具体的には、以下の点が挙げられます。

  • 世代間の所得再分配
    • 現役世代が納めた保険料を、高齢者への年金給付に充てることで、世代間で所得を再分配しています。
  • 所得水準に応じた再分配
    • 厚生年金保険では、高収入の被保険者がより多くの保険料を負担し、低収入の被保険者は相対的に少ない保険料でより多くの年金を受け取れる仕組みになっています。
  • 国庫負担による再分配
    • 基礎年金の半分は国庫負担となっており、所得の高い人ほど税負担が大きくなるため、税を通じた所得再分配機能も有しています。

年金の所得再分配機能が果たす役割としては、まとめると、

  • 高齢者の生活保障:
    • 年金は、高齢者の生活を支える重要な収入源であり、貧困の防止に貢献しています。
  • 社会全体の安定:
    • 年金制度は、社会全体の安定に寄与しています。高齢者が安心して暮らせる社会は、若年層にとっても働きがいのある社会につながります。
  • 経済の活性化:
    • 高齢者が安心して消費できる環境を整えることで、経済の活性化にもつながります。

年金はいくら払って、いくらもらえる?

国民年金保険料を支払う額は?

国民年金保険料(月額)は1万6,980円です(令和6年度)。この金額を20歳から60歳までの40年間(480か月)を全額納付した場合、およそ815万円※となります。

【国民年金保険料の総額】
1万6,980円×480か月=815万400円

※ただし、国民年金保険料は毎年見直されるため、将来の保険料額は変動する可能性があります。

国民年金(老齢基礎年金)の受給額は?

令和4年度の受給資格期間が25年以上の方を対象とした平均額は、月額56,428円、年間約67万7,136円です。ただし、年金は毎年改定されるため、実際の受給額は変動する可能性があります。※1

仮に80歳まで生きたとして、67万7,136円✖️15年=10,157,040円を受給できることになります。

2023(令和5)年の日本の平均寿命は男性81.09歳、女性87.14歳※2 となっていますから、多くの方は支払ってきた年金よりも多くの額を受給できる計算になります。
ただし、個人差が大きいため、実際の受給期間は人によって異なります。多くの方は支払ってきた年金よりも多くの額を受給できる計算になりますが、これはあくまで平均的なケースであり、個人の納付状況によって大きく異なります。

※1. 2022年(令和4年度)の受給資格期間が25年以上の方を対象とした平均額

厚生労働省[令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況]参照

※2. 厚生労働省「簡易生命表(令和5年)」参照

平均寿命より、長生きすれば得?短ければ損?

一般的に、長生きすればするほど、受取総額は増えます。 これは、年金を長く受け取れるからです。平均寿命まで生きた場合、支払額よりも多く年金がもらえる計算ですが、平均寿命より長生きできなくても「損」とは言い切れません。

「損」と単純に言えない理由

  • 物価上昇
    年金の金額は、物価上昇率に合わせて年々増額されますが、実際の物価上昇率を下回ることもあります。
  • 経済状況の変化
    経済状況の変化によって、年金制度自体が変わる可能性もあります。

将来、年金が「もらえるか、もらえないか」という問題

年金が破綻するという議論は、過去から現在まで根強く存在します。しかし、年金制度は、経済状況や社会の変化に合わせて、常に見直され、改善されてきています。

  • もらえるかどうかの要因
    年金の支給額や受給開始年齢は、経済状況や人口動態など、様々な要因によって変化します。
  • 制度の安定化に向けた取り組み
    国は、年金制度の安定化に向けた様々な取り組みを行っています。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、年金積立金を運用し、より高い収益を目指しています。

年金は破綻するのか?

年金制度の将来については、様々な意見があり、確実なことは言えません。しかし少子高齢化が進み、経済状況が変化する中で、年金制度は大きな課題を抱えていることは事実です。

一方で、日本の年金を管理・運用する公的機関であるGPIFは、年金積立金の運用に努めており、一定の成果を上げています。しかし、年金制度の持続可能性には、経済状況や人口動態など、様々な要因が影響します。

GPIFの運用成績は、世界経済の状況や市場の動向に大きく影響されます。リーマン・ショックのような大きな経済危機では、大きな損失が出ることもあります。しかし、長期的な視点で見ると、GPIFはインフレを上回る累積収益額を確保しています。

年金と保険の関係性

年金は保険とは異なる側面も持っています。

  • 強制加入
    国民年金は、国民全員が加入することが義務付けられています。
  • 給付内容
    年金は、保険のように一括で支払われるのではなく、一定期間、毎月支払われる年金として支給されます。
  • 目的
    年金の目的は、老後の生活を保障することですが、保険は、死亡や病気など、様々なリスクに対する保障を目的とします。

年金は保険?生命保険などとの比較

年金と保険、特に生命保険との混同はよく見られます。どちらも将来の保障を目的とするものですが、その仕組みや目的は大きく異なります。

年金と保険の違い

特徴年金生命保険
目的老後、障害、死亡時の生活保障死に際しての経済的な負担を軽減
仕組み積み立てた保険料と国や企業の拠出金によって、年金として受け取る万が一の死亡時に保険金が支払われる
種類公的年金(国民年金、厚生年金)、私的年金生命保険、医療保険、学資保険など
加入の義務国民年金は原則加入義務がある加入は任意
給付内容定期的な年金給付一括での保険金支払い

年金と他の保険との比較

保険種類年金との比較点
生命保険死亡保障に特化している点で異なる。年金は生存時の保障も目的とする。
医療保険医療費の保障に特化している点で異なる。年金は生活保障を目的とする。
自動車保険事故による損害賠償や車両の修理費用を保障する点で異なる。
住宅ローン保証保険住宅ローンの返済が困難になった場合に、残りの債務を保証する点で異なる。
団体信用生命保険従業員が死亡した場合に、企業が負う債務を保証する点で異なる。

まとめ

そもそも年金は、老後や障害、死亡時など、将来の生活を保障するための制度です。つまり、生きている時にもらえるものです。国民年金は加入が義務付けられており、厚生年金は会社員などが加入するものです。一方で生命保険は、年金と保障内容が違い死亡時に保険金が支払われるもので、年金のように定期的な給付はありません。その他の保険についても、それぞれ異なる保障内容を持っています。

また、年金の支給額や受給開始年齢は、経済状況や人口動態など、様々な要因によって変化しており、実際に私たちがもらう額は今の年金受給世代とは異なります。

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