私たちは、つい他人の成功を羨んだり能力を妬んだりしてしまう所があります。学生時代はライバルの成績が気になり、就職活動では同級生の就職先が気になり、社会人になれば同僚の昇進が気になり…。「自分の方が努力しているのに」「あの人は環境に恵まれているだけ」ーー。そんな風にネガティブな感情に苛まれることもあるでしょう。嫉妬は生きる上での永遠のテーマかもしれません。人間が手放すことのできない嫉妬心とどう上手に付き合っていけば良いのでしょうか。脳のメカニズムを知って、「嫉妬」というネガティブな感情と上手に付き合っていく方法をご紹介します。
なぜ人は嫉妬するのか
嫉妬の感情を抱くのは、脳の働きと関係しています。嫉妬は、自分と同じような境遇にいる相手に対して起こるといわれています。たとえば世界のトップ企業の社長やオリンピック選手などに対しては羨望の眼差しで見ても嫉妬はしません。ですが自分と近しい境遇の人間が成功していると、妬ましく思ってしまいます。この心の動きを専門的には「獲得可能性と親近性の差」といいます。全く立場が異なる人間の成功であれば、自分には手に入れられないと納得できます。しかし身近な人物が獲得している場合、自分でも手に入れられるのではと嫉妬の感情を抱いてしまうのです。こうした嫉妬の感情は、自分に対して満足していない時に起こります。
また嫉妬には自分の環境がおびやかされるかもしれないという恐怖も根底にあります。職場での嫉妬であれば、自分の地位が同僚や後輩に奪われるかもしれないという不安。自分より容姿が優れている相手に対しては、愛情や注目が奪われてしまうかもしれないという危機意識があります。嫉妬は自己防衛の一種であり、生物として当たり前の感情なのです。
脳内における嫉妬のメカニズム
脳科学の分野でも、嫉妬のメカニズムがわかっています。2008年、放射線医学総合研究所で嫉妬と脳に関する研究が行われました。その結果、体の痛みに関わる「前部帯状回」が嫉妬に関与していることがわかりました。また嫉妬の感情を抱きつつ、同時に罪悪感も感じることが解明されています。どうして嫉妬と罪悪感という、一見矛盾した二つの感情を人は持つのでしょうか。その理由を脳科学者の中野信子氏は、人間の中で「個体レベル」と「社会レベル」が乖離しているからだと述べています。すなわち、「社会的存在の自分」と「個体の自分」を制御する場所が脳の別の部分にあるために葛藤が生じるというのです。
「個体」として生を保とうとする能力は、大脳の「辺縁系」にあります。これは人間の生命維持や本能行動、情動行動に関与しています。嫉妬の感情を抱く時、脳内の「大脳辺縁系」の活動が大きくなることがわかっています。そして怒りや不安を感じた時も大脳辺縁系が活発になります。つまり嫉妬の感情は、怒りや不安と同じ原始的な感情といえるのです。
強すぎる嫉妬は脳に悪影響を与える
嫉妬は本能的感情でありごく自然なことです。問題は「ジャマしてやる」といった負の感情を相手に持つことです。サルへの研究で、強い嫉妬はストレスホルモンのコルチゾールが上昇することがわかりました。コルチゾールは生物にとって必要不可欠のホルモンです。その働きは肝臓での糖の生成、筋肉でのたんぱく質代謝、脂肪組織での脂肪の分解などの代謝の促進、抗炎症および免疫抑制など様々です。通常この分泌が増えすぎると脳の自己防衛機能により濃度が低く保つように制御されます。しかし過剰なストレスを受け続けるとコルチゾールの分泌が慢性的に高くなります。その結果、うつ病や不眠症、生活習慣病などの一因となることがわかってきているのです。
また人間が嫉妬心を抱くと脳全体が熱を帯びます。そして「超前頭野(スーパーフロンタルエリア)」と呼ばれる部分の血圧が上がり、脳の酸素効率が悪くなってしまいます。この「超前頭野」は高度な情報処理を行う機関でもあります。酸素が行き渡らなくなることでより複雑で深い思考ができなくなってしまうのです。逆に、人に対して憧れを抱いた場合、超前頭野はクールダウンされます。その結果、脳の酸素効率は良くなります。人に嫉妬心を抱くか憧れを抱くかで脳に与える影響は全く異なるものになるのです。しかし憧れの感情のみ抱くのは難しいことかもしれません。ではどうすれば良いのでしょうか。
嫉妬とうまく付き合っていく方法
嫉妬には2つの種類がある
心理学では、嫉妬には二つの種類があるとしています。一つ目はジェラシー型嫉妬と呼ばれるものです。これはポジティブなエネルギーに変えていけるのが特徴です。たとえば相手に嫉妬した時、ジェラシー型は「負けてたまるか」「追い越したい」と、自分を向上させるための原動力にします。二つ目はエンビー型嫉妬です。こちらは攻撃的心理やネガティブな感情が伴います。たとえば、成功している人や自分に無いものを持っている人に対して、「不幸になればいい」といった感情を持ちます。ジェラシー型が嫉妬をバネに努力していけるプラスの嫉妬であるのに対して、エンビー型はマイナスの感情しか生みません。
前向きな嫉妬にするには
ジェラシー型の嫉妬にするためには、自分を客観的に捉える方法が役立ちます。これはメタ認知といわれるものです。自分自身を高い視点から客観的に見ることで、自分の嫉妬を分析することができます。たとえば「相手のどこに嫉妬しているのか」「どうして嫉妬するのか」などを分析します。そうすることで自分がなりたいものや欲しいもの、やりたいものが明確になります。嫉妬を抱く根本的理由を明らかにし、それをバネにポジティブな原動力に変えていくのです。人間は自分を肯定できてはじめて相手も受け入れることができます。そして嫉妬する自分を客観的にみることで、ネガティブな感情をポジティブなものにしていけるはずです。
- 参照文献
- 「妬みや他人の不幸を喜ぶ感情に関する脳内のメカニズムが明らかに」(放射線医学総合研究所)
- 「wotopi」(友達のフェイスブックにイライラするのはなぜ? 脳科学者と心理学者が解説する「嫉妬」と「妬み」の正体)
- 「脳の強化書」(加藤俊徳)
まとめ
人間は誰しも自分と相手を比べて嫉妬してしまう生き物です。相手に嫉妬することで罪悪感も抱いてしまいますが、必ずしも嫉妬は悪いものではありません。嫉妬してしまう自分を客観的に捉え、嫉妬の内容を明らかにすることで「なりたい自分」「欲しいもの」などがわかります。それをバネに努力していくことが大切です。
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